もっとも安全で、美しく、退屈な場所

Added on by Atsushi Hirao.

私は少年時代をロサンゼルスのRancho Palos Verdes という場所で過ごしました。
ロサンゼルスの南側、切り立った崖が海に面した半島にある高級住宅街です。日本から来た仕事でやってきた家族の大半がここに住んでいたと思います。

この街はとても安全で、美しく、そして退屈な場所でした。

車が無ければどこに行くこともできず、通学も両親が車で送り迎え。
とても狭い世界に生きていた10年間でした。

 

高校生になって日本に帰国し、大学に進学すると、自然と色々な場所に旅をする様になりました。

Kathmandu, Nepal, 2008

そして大学4年の夏。
就職活動もしたようなしていないような状況で留年が決まり、貯金でもしようと住み込みの仕事を探すことにしました。それもせっかくなら少し変わったところがいいと思い、思いついたのが山小屋でした。

山登りをする家庭で育っていは言え、自主的に山へ向かったことは今までありません。そこで母に相談すると、「日本で一番素敵な小屋」として紹介されたのが北穂高小屋でした。
特に下調べをする訳でもなく小屋に電話してみると、ちょうどアルバイトに欠員がでたというので即採用が決まりました。

まさかそのあと5年もそこで写真を撮ることになるとは想像もしていませんでした。

 

標高3106mの山頂にポツリと建つ小屋では、雨水は超貴重品。食料・物資を運ぶヘリコプターは天候次第。山岳事故や遭難も明日は我が身。食事の用意から簡単な土木工事まで、何でもあの空間でやらなければなりません。

でもそれは私にとって、とても生きた心地のする生活でした。